相続税の納付額に不動産評価は大きく関わる部分ですが、家屋や土地は、預金や株式等と異なり「残高や客観的な時価」が明示されていません。また、利用目的や権利関係の有無、地形等によって複雑な計算が必要になってきます。
被相続人の財産の中でも、不動産評価額は、預金残高より高額になる事も多く、計算を誤ると相続税の納税額に大きな違いが出てしまうので、十分に注意して計算することが必要です。
ここでは、建物や土地の不動産評価について基本的な考え方を説明いたします。
- 相続税 不動産評価 (家屋の評価)
- 相続税 不動産評価 家屋に準ずる資産価値の評価
- 相続税 不動産評価 宅地の評価
- 相続税 不動産評価 借地権の評価
- 相続税 不動産評価 貸宅地・貸家建付地の評価
- 相続税 不動産評価 私道の評価
- まとめ
1.相続税 不動産評価(家屋の評価)
相続税の中で、不動産評価(家屋の評価)方法は下記になります。
アパートやマンション、貸家として評価する場合には、賃貸借契約書を確認する必要があります。
親族等に無償に貸している場合は、相続税の計算における「貸家」に該当しませんので注意が必要です。
2.相続税 不動産評価 家屋に準ずる資産価値の評価
建築中の家屋、門や塀等の付属設備、庭園設備については次のように評価します。
2-1.不動産評価 計算法
(建築中の家屋)
家屋の費用原価×0.7
2-2.不動産評価 計算法
(門や塀等の附属設備)
(再建築価額-課税時期までの償却費額の合計額 )× 0.7
※再建築価額とは、課税時期に門、塀等を新たに建築等する場合に必要な費用の額をいいます。
2-3.不動産評価 計算法
(計算法庭園設備)
調達価額× 0.7
※調達価額とは、課税時期に庭園設備を現況で取得する場合に要する費用の額をいいます。
2-4.不動産評価 確認資料
■家屋や家屋に準ずる資産の評価に必要な確認資料は以下になります。
- 固定資産税納税通知書(対象物件の所在地や家屋番号、延べ床面積等を確認します)
- 固定資産税建物評価証明書(管轄の市区町村の税務課にて請求します。)
- 図面又は公図(管轄の法務局にて請求する。)
- 登記事項証明書(登記事項証明書はインターネットで入手できます。)
- 住宅地図(図書館、インターネットで閲覧、印刷できます。)
- 航空写真(地図検索サイトで確認、印刷できます。)
- 現地の写真(現地調査時に、資料だけでは確認できない部分等を撮影します。)
- □建築確認申請書(建築時の書類を確認します。)
■アパートやマンション等、貸家として評価する場合は下記の資料も確認が必要です。
- 所得税の申告書類(賃貸状況の確認、債務控除として預かり敷金の有無等について確認します。)
- 建物賃貸借契約書(長期間に渡り空室で入居募集していない部屋については貸家評価できないので注意が必要です)
2-5.不動産評価
確認資料 収集のポイント
- 法務局に行く場合には、登記事項証明書、建物図面、公図をまとめて収集すると手間が省けます。
- 貸家の場合は自用家屋より評価額が下がるので、建物賃貸借契約書を根拠資料として収集します。
◆見つからない場合は、確定申告書(決算書)を確認、整理することで対応します。
3.相続税 不動産評価 宅地の評価
3-1.不動産評価 路線価方式
市街地の土地の評価は「路線価方式」に基づき算出します。
路線価とは、土地に面する道路につけられた価格です。 ただし、角地、二方道路、三方道路、不整形地、間口が狭小な宅地などは、特別な補正をします。
3-2.不動産評価 固定資産税評価額方式
路線価のつけられていない土地は「倍率方式」で評価します。
この方式では、固定資産税評価額に一定の倍率をかけて評価します。
市区町村役場で評価証明書をとり、国税庁が公表している倍率表に載っている倍率を固定資産税評価額にかければ求められます。
固定資産税評価額はその土地の形状や状態などを考慮して定められているため、『路線価方式』のような複雑な計算は必要ありません。
3-3.不動産評価 自用地の評価
自用地とは、他人が使用する権利のない土地をいいます。
具体的には、他人の家屋、アパートやマンション等の敷地になっていない土地をいいます。簡単に言えば、自分自身が所有、使用している建物等の敷地をいいます。(駐車場の敷地も含みます)
自用地は次のように評価します。
4.相続税 不動産評価 借地権の評価
土地を借りてその上に自己所有の建物を建てたとき、建物の所有者にはその土地を使用する権利があります。このような権利を「借地権」といいます。
このとき、貸す人(土地の持ち主)を「地主」、借りる人を「借地権者」と呼びますが、借地権者は地主と契約を結んで地代(土地の利用料)を支払う仕組みになっています。
借地権者が亡くなった場合は、所有する建物だけでなく借地権に対しても相続税がかかります。
4-1.不動産評価 借地権の種類
普通借地権
期限を決めて土地を借り、利用する権利で、契約期間は原則として30年か、それ以上の期間とする借地権です。
定期借地権
更新ができない借地権で、借地権者は期間満了時に土地を更地にして地主に返還する必要があります。
地主にとっては、将来の見通しを立てやすい制度になっています。
契約期間は、基本的には50年以上になりますが、以下の通り、契約によって異なります。
●一般定期借地権(借地借家法25条)
期間の満了に伴って借地契約は終了し、借地権者は建物を取り壊して土地を地主に返還する必要があります。契約期間は50年以上とされています。
●建物譲渡特約付借地権(借地借家法24条)
借地契約後30年以上を経過した時点で地主が建物を買い取ることを最初から契約した借地権で、地主に建物を譲渡した時点で借地権は消滅します。
4-2.不動産評価 借地権の評価
借地権は次のように評価します。
5.相続税 不動産評価 貸宅地・貸家建付地の評価
5-1.不動産評価
貸宅地・貸家建付地とは
貸宅地とは第三者に土地を貸していている場合で、第三者が家や事務所などを建てている土地のことです。
貸家建付地とは、所有している土地に貸しアパートや貸家などを建築して、他人に貸し付けている場合の、その土地をいいます。
5-2.不動産評価
貸宅地・貸家建付地の評価
貸宅地・貸家建付地については次のように評価します。
■貸宅地自用地の評価額×(1-借地権割合)
■貸家の敷地自用地の評価額×(1-借地権割合×0.3×賃貸割合)
5-3.不動産評価
賃貸割合とは
貸家建付地は、借家人が賃借している前提で自用地より低い評価額になっています。
そのため、長期間に渡り空室になっており、かつ、賃貸募集等を行っていない場合は、その空室部分に対応する土地については自用地にて評価する制度です。
なお、課税時期において、一時的に空室となった部分は賃貸部分に含んで計算することができます。
6.相続税 不動産評価 私道の評価
賃貸割合は以下の算式により計算します。
私道とは、公共道路と異なり、個人が所有している道路であるため相続財産になります。
私道の評価は次の通りです。
□不特定多数の者の通行の用に供されているもの(通り抜け私道)
・・・評価しない。
□特定の者の通行の用に供されているもの(行き止まり私道)
・・・自用地価格×30%
□路線価の付されていない道路にのみに接している私道
路線価の付されていない私道については、納税地を管轄する税務署長に「特定路線価設定申出書」を提出し、路線価を設定してもらうことができます。
■特定路線価を設定した場合は以下の評価になります。
まとめ
ここでは、家屋や宅地等の不動産についての相続税を計算するための基本的な評価方法をまとめました。
実務における不動産の評価は、権利関係や利用目的、土地の地目や形状によって複雑に異なりますので、税理士でも正しく計算するのは非常に困難なこともあります。
税務署に申告書を提出する際には、誤った相続税申告をしないためにも相続税に慣れている税理士に相談する方がよいでしょう。